椅子からの立ち上がり動作(sit-to-satand,以下STS)は,日常生活場面では非対称的なSTSとなりやすいと考えられる.そこで本研究は,頸部左右回旋位のSTS と頸部正中位のSTS の相違について運動学的な観点から検討することを目的とした.対象は,成人男性20 名とした.分析課題の開始肢位は,股・膝関節屈曲角度90°位,足関節底背屈中間位となる端座位姿勢とした.自由速度で動作を行い,終了肢位は安楽な立位姿勢とした.課題は,頸部正中位,頸部左右回旋(15°,30°,45°)したSTSとした.この動作は,三次元動作解析装置にて計測し,動作時間,骨盤・胸郭角度変化を算出した.また,身体重心を求め,移動距離,前後径,左右径を算出した.その結果,胸郭左右側屈・回旋角度変化,身体重心移動距離・左右径に有意な差を認められた.頸部正中位と比較すると頸部左右回旋位は頸部の角度変化に関係せずに,左下肢に荷重を乗せるような動作となっていることが示唆された.今回得られた結果から,STS 動作時に左右不均等な体重配分をする患者に対しては,バランスの安定性の低下や転倒の発生が起こるのではないかと推測された.